通常、企業の採用活動といえば、求人広告や人材紹介サービスを活用し、それなりのコストをかけて進めていくのが一般的です。しかし、あるマーケティング会社では、創業から10年以上にわたり、外部サービスに頼らず、広告費ゼロで必要な人材を確保し続けています。しかも、採用の質にも高い評価があるのです。

この会社が取り入れているのは、「顧客を採用対象として捉える」という、一風変わったアプローチです。

「顧客が人材になる」採用の視点を変える戦略

一般的に採用活動では、求職者に対して「うちの会社はこんなところです」と伝えるところから始まります。しかし、既存の顧客はすでにその企業のサービスや対応力に触れており、一定の信頼感を抱いています。つまり、ゼロから企業理解を促す必要がないぶん、採用活動としては非常に効率的です。

この企業では、顧客リストや日常の顧客接点を通じて「一緒に働く仲間を探しています」と声をかけるところから始めました。ただ求人を出すのではなく、「より多くの人を助けたい。そのために一緒に活動してくれる人を探している」という、会社の想いや姿勢を丁寧に伝えるようにしています。

屋根修理会社での導入事例

この手法は、同社のクライアント企業である屋根修理業者にも展開されました。
後継者が事業を引き継ぎ、体制強化のために事務スタッフを採用したいと考えていたものの、通常の求人ではなかなか人が集まりませんでした。

そこで、過去の施工を依頼した顧客に向けて「仲間を募集しています」と案内。その際も単なる業務内容の説明ではなく、「誠実な仕事を通して人々の住環境を支えてきた。今後さらに多くの方に貢献するため、力を貸してくれる人を探している」といった企業理念を伝える内容にしたところ、興味を持ってくれた複数の応募者が現れました。

オンラインでのカジュアルな面談を行い、応募者の理解や共感を深めたうえで採用に至った結果、短期間で3名の事務スタッフの採用に成功。その後も、顧客ベースからの人材獲得が継続できているといいます。

このアプローチが効果的な理由

この「顧客リクルーティング」がうまくいく背景には、以下の3つの要素があります。

  1. 企業理解が深い
     すでにサービスを体験している顧客は、企業の価値や雰囲気をある程度理解しています。
  2. 企業への好意がある
     満足度の高い顧客は、その企業に対する信頼感が強く、働くことへの心理的ハードルが低いです。
  3. コストがかからない
     すでに存在する顧客との接点を活かすため、新たな媒体への掲載費や紹介手数料などのコストが発生しません。

他業種でも応用できる可能性

この手法は、BtoC業界であれば業種を問わず応用可能です。たとえば:

  • 美容室:常連のお客様に「一緒にサロンを盛り上げませんか?」と声をかける
  • カフェ:お店のファンに「アルバイト募集」の案内を店内で行う
  • ネイルサロン:スクールと連携し、施術を受けに来た人に講座受講を提案する

いずれの例も、「すでにサービスに関心がある人」にアプローチしている点が共通しています。

採用を“営業の延長”として考える

採用は、人事部門だけの仕事ではありません。特に中小企業においては、日常的な顧客との接点や、会社全体の姿勢そのものが「採用活動の一部」になり得ます

「うちの会社で働くということは、こういう価値観のもとに動いているということです」と自然に伝えられる企業は、求人媒体に頼らなくても人が集まる土壌を持っているのです。

最初に始めるべきアクション

この方法を導入したいと考えるなら、まずは以下のステップから始めてみてください。

  1. 過去のお客様リストを整理する
  2. 会社の想いや理念を伝える「採用メッセージ」を用意する
  3. 興味を持ってくれた人とオンライン面談できる準備をする

最後に

高額な求人広告や紹介サービスに頼らずに人を集める手法は、すべての企業にとって理想的です。「顧客=ファン」を採用チャネルにするという視点が持てれば、コストをかけずに、価値観の合う仲間を見つけることができるかもしれません。

採用の悩みを、日々の顧客との関係性から解決してみる。そんな新しい一歩を踏み出す企業が、今後ますます増えていきそうです。